白い翼

徒然なるままに。ときどき仕事。

旅行

お題「好きなシリーズもの」

今、イスタンブールを過ぎて、ギリシャからイタリアへ渡るところだ。

 

これが現実なら、様々に意見もいただくところだが、そうではない。

 

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沢木耕太郎さんの名著、『深夜特急』の話である。

もともと旅行好きの私は、歳を重ねるごとに道祖神の導きが強くなるようで、ここ数年は海外志向こそなくなったものの「ザック片手に日本一周」みたいなことを本気で思うようになった。いい中年なのに。サイコロを振って深夜バスで旅をしたいのだ。まじで。

 

ある意味、逃避なのかもしれない。

 

仕事も家庭も放り投げたら…という、あってはならない事態を妄想するのもまた楽しい。それくらいの逃避は許して欲しいのである。安心・安全は絶対条件としながらも、「明日のことは明日決めればいい」というところに身を置いてみたくなる矛盾。そんな心の隙間を、この本は埋めてくれた。先月まで入院、自宅療養という限られた世界にいた私に、外界の、しかも海外の風を感じさせてくれたのだ。

 

沢木さんが旅をしたのは1970年代だから、現実と隔世の感があるのは否めないが、(例えば、アフガニスタンの章では自然豊かな描写に心が洗われるが、今はどうなのだろう、とか。)根本的な国民性やそこに流れる風土そのものは変わらないのではないかと思う。私たちだって、スマホやインターネットの世界になったが、それで個人主義が徹底したかと言われればそうではない。「みんながマスクをするのなら、みんなでマスクをしよう」みたいな「和をもって尊し」という精神性は変わっていないのだから。

 

少々脱線したが、このシリーズの本当の面白さは、いつしか自分が「私」(=沢木さん)になっていくことである。出てくる海外の描写、そこに息づく人々の暮らしに「私」がどう感じ、どう接しているかをなぞっていくうちに、深い共感が生まれていくのだ。この面白さは、沢木さんの作品に共通して言えることかもしれない。プロボクサー、カシアス内藤の隆盛を追った『一瞬の夏』もまた、リングサイドから、ジムの片隅から彼を見ているような錯覚に陥りそうになった。

 

閉塞感の中で明かりを灯してくれた深夜特急の旅も、あと1巻で終わる。買いたいような、買いたくないような、複雑な気持ちだ。

 

海外とは行かなくても、いつか、ザック片手に日本一周をしたい。車で北海道を一周できたのだから、きっと出来るはずだ。

 

…お金は、必要だが。